のたうち回る

 締切に追われ、切羽詰まって論文を書いていると、最初に大学院の紀要に発表した論文を書いていたときのことをいつも思い出す。

 留学生活も1年半ほどが過ぎ、そろそろ帰国が近づいていたときのことである。いろいろ勉強はしたが、「手ぶら」では帰れない。指導教授に留学の成果を理解してもらうためには、論文を書かなければいけない。博士後期課程1年次の秋に留学したが、留学準備にかまけて論文を発表してこなかった。もっとも研究テーマがはっきりしていなかったのであるが・・・。

 博士後期課程に進学して3年。就職を考えると、論文が1本もないのは苦しい。帰国前になんとしても1本書いていかなければいけない。そう決意して、帰国前1ヶ月半ほどは、ほとんどアパートを出ずに、論文を書くことに集中した。留学中に資料はかなり集めていたし、ノートも相当取っていた。それらをまとめて論文にすればいい。しかし、活字になる論文をはじめて書くという精神的圧迫は相当なものだった。修士論文を、最後の段階で力を抜き、出来の悪いものにしてしまった経験があるだけになおさらだった。400字詰原稿用紙にして70枚ほどの原稿だったが、少し書いてはベッドに倒れ込み、どう書けばいいか、どのような構成にすればいいか、のたうち回りながら考えた。ベッドで頭をかきむしって、もがいている光景しか思い出せない1ヶ月半だった。

 しかし、あれほど論文に没頭できたときはない。もがき、のたうち回った1ヶ月半は本当に苦しかったが、振り返れば幸福なときであった。