ご職業は?

 M川先生、実は別荘を持っていて、今頃は涼しく避暑生活を楽しんでいることと思う。なかなか立派なマンションも購入済みだ。うちの大学の安月給でこのようなリッチな生活が楽しめるのは、院生時代から貯金に励んだ結果である。月20万円を超える家庭教師だけでなく、他のアルバイトもやっていたので、当時のM川先生、その辺のサラリーマンよりもはるかにリッチな院生だった。それでもいつ就職できるかわからないから、毎月せっせと郵便局へ行って貯金をしていた。まだATMが普及していない頃の話である。

 M川先生、着るものにお金をかける気がないので、だいたいボロボロのTシャツによれよれのジーパン姿だ。郵便局にもその格好で貯金に行く。夏なら短パンにサンダルだ。そんな小汚い格好の青年が毎月かなりの額を預金しにくるので、窓口の職員がみんな不審に思ったらしい。ある日、いつものようにボロボロのTシャツに、短パンサンダル姿で貯金に行ったら、局長が出てきてこう言ったそうだ。「すみません、ちょっとお話を伺いたいので奥にいらっしゃってもらえますか?」奥でどういう職業か、どのように毎月そんな額の貯金ができるのか、聞かれたのである。怪しい商売をしていると思われたのだろうが、月3万円が相場の家庭教師を1回3万円でやっていたのだから、詐欺師も同然だ。怪しいと言えば十分に怪しい。