授業料値上げ反対スト(3)

 授業料値上げに反対して、ストライキが決行された。学年末定期試験は中止になった。掲示板には、学部当局からのストライキ決行を非難する告知が掲示された。

 しかし、学生の喜びはほんの一瞬だった。つかの間の「勝利」だった。

 試験の代わりにすべての科目でレポートにより成績評価を行うという告知が、学部当局からなされたのだった。告知からレポートの締切までは10日ほどしかなかった。たいていの学生は10科目以上履修していたから、最低でも1日1科目の割合でレポートを仕上げていかなければならなかった。

 定期試験の問題をそのままレポートに切り換えた教員もいれば、原稿用紙10枚ほどのレポートを書かせる教員もいた。事務所に提出させる教員もいれば、自宅に郵送させる教員もいた。分量も様式も提出方法も様々だったのも、思考を混乱させ、学生を慌てさせた。「やられた!」、「やばい!」、「まずい!」・・・、そんな思いしかなく、学部当局に抗議する余裕など、一般学生は持ち得なかった。とにかくレポートを仕上げなければという思いしかなかった。

 1日1科目レポートを仕上げなければいけないのだから、定期試験よりもはるかに大変だった、きつかった。過酷な10日間だった。レポートを仕上げることに必死で、授業料値上げ反対はどこかへ行ってしまった。気がついたら、授業料は値上げされていたのだった。

 結局、後に残ったのは、もうストライキはこりごりだという思いだけだった。果たして、その後3年間、ストライキはなかった。授業料値上げ反対運動が起こり、ストライキが決議されたのは、それから4年後のことだった。学生が入れ替わり、前回の苦い思い出がなくなってからのことである。そして、4年前と同様に試験は中止となり、レポートに振り返られ、学生はあわてふためいた。

 そして、この4年後のストライキが最後のストライキになった。別に学生が「学習」したわけではない。授業料が物価に連動して値上げされていくシステムが導入されてしまったので、値上げ反対運動そのものが起こりえなくなってしまったのだった。