social science とsocial sciences(2)

 social sciences とsocial scienceはどう違うのか?

 この問いに本格的に答えようとすると、そもそも社会科学とは何か、という問いに行き着くが、ここでは英書を読む際の注意を喚起するために問いを立てたので、簡単に説明する。

 社会科学に属する学問には、政治学、経済学、社会学などがある。これらは「個別」社会科学である。こういった個別の社会科学によって構成される社会科学がsocial sciencesである。手元にある『ジーニアス英和大辞典』には次のように説明されている。

(1)[通例 the 〜 sciences]社会科学《経済学・歴史学政治学・心理学・人類学などの総称》
歴史学、心理学、人類学が社会科学に属するのか、議論はあろうが、さまざまな個別社会科学の総体、総称がsocial sciences(複数形)であることがわかる。

 『ジーニアス英和大辞典』には上の説明のあとに次のようにある。

(2)1の1部門; 社会学
 これから単数形のsocial scienceは、総体としての社会科学(複数形)を構成する個々の社会科学を意味する、その中でもとくに社会学のことをいうことがわかる。

 辞書的には以上でいいのだが、社会科学を学ぼうとする学生は以下のことを知らねばならない。
 

 社会科学は社会に関する学問であるが、social sciencesと複数形で書く場合は、政治学社会学や経済学など、個別社会科学の集合体として捉えられるから、社会に関する研究のアプローチも、それぞれの学問によってさまざまとなる。

 それに対して、social scienceと単数形で書くときには、複数形の社会科学を構成する1つずつの個別社会科学を意味するだけでなく、社会に関する1つの独立した学問を意味することがある。この場合、経済学、社会学政治学による社会に関する研究の総体として社会科学(複数形)を捉えるのではなく、個別学問の枠を越えた、社会に関する統一的な学問としての社会科学(単数形)を想定する。つまり、社会に関する1つの独立した学問が存在する、あるいは成立すると考えるのである。

 社会に関する独立した1つの学問が成立し得るかについては議論があろうが、統計学や心理学などの発展によって、調査方法の多様化やデータ処理技術の急速な向上が見られた20世紀前半には、自然科学同様、社会に関しても一般理論、一般モデルが構築できる=1つの社会科学が成立すると考えられたことがあったのである。

 sがあるか、ないか、単数形か、複数形か、ということには、以上のような意味、思想の違いが存在するのである。