スペシャルドライカレー

 カレーの藤と言ったら、スペシャルドライカレーで決まりである。普通のドライカレーやケチャップライスもあったが、私の一番はなんと言ってもスペシャルドライカレーだ。

 スペシャルドライカレーは、ドライカレーのてっぺんを凹ませて、そこに生玉子を入れ、粉チーズを振りかけたものである。ドライカレーの平板な辛さ(と思われたので私はあまり注文しなかった)が、生玉子と粉チーズによって芳醇と呼んでもいいような深みのある味に変貌した。カレーの辛さに玉子の甘さが加わり、チーズによってコクがもたらされた。まったりした味とねっとりした感触が好きだった。

 粉チーズは大さじにかなり控えめに盛られていて、実を言うともう少しふりかけてもらいたかった。新入りのアルバイトがどの程度かけていいかわからず、ときどき「チーズはどのくらいかけますか?」などと客に聞いたりしていたが、そういうときはお姉さんからすかさず指導が入った。

 スペシャルドライカレーの難点は650円(だったと思う)という料金だった。貧乏学生だった私は、200円を惜しんで普通のカレーにしたことが何度あったことだろう。それとこれはスペシャルドライカレーに限ったことではなく普通のドライカレーなどにも言えるのだが、火の関係で注文されてから1つずつ順番につくっていかざるをえず、これらの注文が重なると、そこそこ待たされたことである。一緒に入った友人が普通のカレーを頼んで食べ終わって出ていった頃に、ようやく自分のスペシャルドライカレーが来るというようなこともあった。ロボットとかサイボーグと言われたお姉さんの手さばきをもってしても、注文が5つも6つも重なると、しばし待たざるをえなかった。まあ、そういう時は、身体は動かず、腕だけが高速(光速)に動く、お姉さんの調理姿を見ていれば良かったのだが・・・。

 カナリヤ同様、カレーの藤においても、店内に緊張感が走っているときがあった。母娘喧嘩の時だった。

 フクちゃんの納豆メンチもカナリヤの生スタも食べたいが、どれか1つを選べと言われれば、スペシャルドライカレーが、一番食べたい。