前科・・・

 もう10年以上も前、まだ院生の頃の話。
 留学から戻ってきて、後輩2人とフランス語の勉強会をやることになった。毎週1回、大学院生用の部屋に集まって、2時間ほど訳読をしていた。終わってからは、3人でお昼を食べる、楽しい勉強会であった。

 勉強会が軌道に乗ってどのくらい経った頃だろうか。彼女(後輩の1人、既婚)が、合コンを企画してくれた。われわれに友達を紹介してくれるという。どうしてそういう話になったのか、よく覚えていないのだが、われわれ2人に断る理由はなかった。

 彼女は友達を3人ほど連れてくるということだったので、こちらは私の友達2人に声をかけ、数をそろえることにした。

 合コンの場所は原宿だったように記憶する。貧乏院生が普段絶対入ることのないおしゃれなお店であった。お店にも女性にも慣れていないわれわれは、ぎこちなく会話し、ぎこちなく食事をした。時間が来たので、店を出た。
 彼女たちはそのまま帰るという。
 われわれは2次会に行くことにした。男だけの飲み会は、妙に盛り上がり、話は弾む、酒は進む、ぐでんぐでんに酔っぱらった。
 アパートにたどり着いたときには、日付は変わっていたと思う。

 朝、寝ていると、電話が鳴った。
 頭が痛い・・・受話器を取ると、昨日一緒に飲んだ後輩である。
 「勉強会の時間です」

 「ごめん、頭がガンガンするから休ませて・・・彼女にもよろしく・・・」

 そのあとの経過を実は私はよく知らない。二日酔いで、勉強会を休んだことが彼女の逆鱗に触れたという話らしい。「らしい」というのは、私は直接怒られたわけではなかったからだ。彼女の怒りはなぜか後輩に向けられた。いや、彼が怒られたわけではない、彼女は私にたいして怒っていたのだが、直接私に怒ることはせず、後輩に文句を言い、後輩が彼女をなだめた(かなりものすごく大変だったらしい)という話だ。

 後輩の努力は結局実を結ばなかった。というのも、彼女は勉強会から離脱したからである。勉強会は中止となった。その後、勉強会が開かれることはなかった。