早慶戦の思い出

 帰ってきて、テレビをつけてチャネルを回していたら早慶戦をやっている。
 小学生、中学生の頃に見たときには、「ずいぶんおじさんたちがやっているな」という印象だった(お兄さんたちがやっているのが高校野球)が、気がつけば「子供たちが頑張っているな」という感じで、いや本当に年をとった。

 その昔、われわれが入学したときは早慶戦がまたまた過熱していたときで、神宮球場への泊まり込み、試合後の歌舞伎町での騒動が問題になっていた。私は泊まり込みはしなかったように記憶しているが、試合後の歌舞伎町での騒ぎには参加した。試合が終わって、仲間と新宿まで歩き、飲んでコマ劇場の前に行ったら大騒ぎになっていた。
 当時、コマ劇場前には池があり、みんなそこに入ったり、投げ入れられたりして、あたりは水浸しになっていた。電柱に上るものもいた。
 若き私も調子に乗って、仲間を池に放り込んでいたのだが、とうとう私の手足が数人につかまえられるときが来た。
 手足をとられ、勢いよく空中に投げ出された瞬間、「これは夢だ」と思ったが、そんなことはなくしっかり現実だったから、およそ1秒後にはずぶ濡れになっていた。

 散々騒いだあと、着替えも何も持っていない私は、仕方がないので濡れ鼠のまま山手線に乗って帰途についた。髪は濡れ、靴の中には水が溜まり、歩くたびに足跡をしっかり残していたように思う。ズボンには藻が付着していたはずだ。
 池袋で私鉄に乗り換え、座ることはせず(座席を汚すのが嫌だった)、乗り過ごさないようにと、下車駅で開く進行方向に向かって左側のドアに寄りかかっていたのだが、その列車は下車駅で通過待ちをしたため、開いたのは右側のドアで、結局のところ一駅乗り過ごした。あわててアパートまで走り、洗面道具と着替えを持って風呂屋に走った。閉まる寸前の、もう明かりを落とそうとしているところに滑り込み、何とか汗と泥と藻を洗い流すことができたのであった。
 20年以上前の話である。