眠くなる授業

 というわけで、私の授業は眠くなる授業のようだ。
 一般に、眠くなる授業は内容がつまらないからだ、退屈だからだと言われ、否定的に評価される。果たしてそうか?

 眠くなる授業というのはそれほど悪い授業ではないと思っている。もちろん眠くなるのだから、文句のつけようのないすばらしい授業、受講している学生が感動してやまない授業ではない。もっともそういう授業があるとは思わない。少なくとも小、中、高、予備校、大、院、留学と、普通の人よりも長く学生生活を経験した私であるけれども、そういう授業に出合ったことはない。

 コンサートに行った場合を考えよう。感動的なコンサート、すばらしい演奏(こういったものにはめったに遭遇しないけれども)、これは最後まで寝ないで聞き惚れる。
 他方で、途中でイライラしてくるコンサートがある。間延びした演奏、音量に乏しいオケ等々、聞いているのが嫌になってきて、寝ることさえできない、一刻も早くその場を離れたくなってくる。
 一番多いのが眠くなる演奏だ。これはもちろん名演ではない、だからといってイライラしてその場を離れたくなることもない。そう考える間もなく、寝入ってしまうからだ。感動は与えないが、オケは心地よく響き、睡眠を誘う。もちろん起きたあとで、何で寝てしまったのかと反省するのだが、毎回、毎回、感動を呼ぶ名演を聞くことなどあり得ないのだから、それはそれでよしとすべきである。眠くなる演奏は感動を与えることはないという点では退屈な演奏だが、眠りを誘う、心地よい演奏なのである。

 というわけで、眠くなる授業も少なくとも学生がイライラしない、聞き入っているうちに眠くなる心地よい授業なのである。

 

 もちろん、授業とコンサートとは違うという反論はあり得る。コンサートは受け身的に聞くだけで、授業は学生との応答可能な双方向性を有するからだ。学生が寝ないような工夫をするべきだという意見はあるだろう。しかし、学生とのやりとりを多くする(授業中に当てるといったこと)ことが、学生に歓迎される授業かと言えば、回答は否定的なものとなろう。