ノックをするのは誰だ・・・

 師匠への電話に緊張する話を書いたが、大学院の頃、とくに修士課程の頃は師匠の研究室のドアをノックするのに緊張したものだった。

 金曜日の午後に研究指導があったのだが、開始ちょっと前に研究室前に集まって、同期やら先輩やら、あるいは後輩やらが集まって、誰がノックするのか、誰が最初に入るのか、互いに牽制し合っていた。今考えると無駄な牽制だったが、とにかくみな緊張しまくったのだ。大学院は徒弟社会的な側面があるから、仕方がないと言えば仕方がない。弟子にとって、師匠、親方は、たいてい怖い存在なのだから・・・。同じような光景は他の研究室でも見られたようだし、他大学でも似たような話を聞いたことがある。

 もっとも私の師匠はそれほど厳しい人ではない。ただ、情けない院生の報告に対して、厳しいコメントをつけただけだった。それは静かな口調だったが、またきわめて本質的で、そのため報告者は最後には意気消沈することが多く、また他の学生もほとんどフォローできず、研究指導のおしまいの方ではいつも何とも言えない沈黙が支配したのだった。おそらくはこの沈黙の時間が院生を過度に緊張させ、またノックを躊躇させていたのだと思う。