ある先輩の話

 昨日の指導教授を囲む研究会が終わったあとの懇親会。ちょっと電話しなければいけなかったので、遅れて店に入った。空いているのは、奥の席だけなので、そこに座る。手前側に、後輩とある先輩が座るが、店員とやりとりしやすいのは、この先輩の席。必然的に彼が注文をとる役割を務める。いや、人がいいから、率先してそこに座ったのだろう。

 この先輩、私とほとんど年は違わないが、まだ専任ではない。いくつかの大学で非常勤講師をしているだけである。

 超有名国立大附属高校出身で、頭はいい。英語は読むだけでなく、話す方も問題ない。専門についての知識も豊富だ。研究会で細かい質問をしても、すぐに答えが返ってくる。しかし、就職できていない。なぜか?

 答えは簡単で、論文を書いていないからだ。彼の年なら、20本は欲しい。そのくらいあれば、まとめて単著にすることもできる。しかし、実際に書いたのは、10本程度か。留学をする機会も逸してしまった。書かないから博士号も取れていない。

 穏和で、人柄もいい、真面目に勉強している、しかし、論文を書かなければ、研究者としてやっていくことはできない。