「荒れに荒れた」

 NHKのテレビ番組「プロジェクトX」の問題が新聞(たとえば「プロジェクトX問題、淀川工高校長も『事実と違う』」で取り上げられている。
 中高年が涙を流しながら見ている(本当か?)というこの番組だが、私は好きではなくほとんど見ていない(年に2、3回か)。あの番組の一つの売りは田口トモロヲのナレーションだと思うが、一つ一つのセンテンスが短く、それを淡々と語っていくことによって、成功「物語」という「ノン・フィクション」の「ドラマ」性を盛り上げていく。その結果が「荒れに荒れた」であろう。

 これが「前年度に比較して30%の荒れ具合であり、また隣接した高校に比べても50%以上の荒れ具合であった。その荒れ具合は、教室の椅子や机が投げられるなどの事件が年に55回、器物損壊の被害額は年200万円に上った。」(左の記述は事実でない創作です)などという語りでは、もちろんダメである。視聴者が聞いていられない。
 しかしそうだとしても取材する側は最低限の事実確認をする必要がある。

 この記事を読んで、学生のレポートを思い出した。学生にレポートの課題を出すと、具体的なデータ、数字の根拠を調べずに、「経済は急成長した」、「支持率は急降下した」、「貿易額は大幅に伸びた」、「世論は猛反発した」などと書いてくることが多い。
 どの程度が急成長、急降下、大幅、猛反発なのか?社会科学(私の専門はこの範疇に含まれる)においては、このような主観的な表現は避けなければならない。具体的なデータを記述することが求められる。いろいろな制約があって、具体的な記述ができなくてもデータ、根拠を求めておかなければいけない。
 退学者数も異なっているとのことなので、プロジェクトXの「荒れに荒れた」は、事実確認を怠ったことに由来するのだろう。
 レポートを面倒くさいと思う学生は多いが、レポート課題の目的の一つは、何かを伝えようとするときに、根拠、データを求める姿勢を身につけることであり、この姿勢は社会に出ても有効であり、必要なのである。