democracyとdemocracies2
democracyは民主主義だと思いこんでいると、In advanced democracies, ……といった文章に出合ったときに、困ることになる。
実際、修士のときの英書の時間に、democraciesが出てきたときに、ある学生が「民主主義の複数形って何でしょうか?」という質問を発した。確かに民主主義の複数形とは、何が何だかわからない。
democraciesと複数形になっているから、この場合のdemocracyは可算名詞である。それに注意してdemocracyを辞書で引いてみると、
民主主義国という意味を見つける。上のIn advanced democraciesは、「先進民主主義国において(は)」という意味になる。
The United States is a 〜. 合衆国は民主主義国である.
(『プログレッシブ英和中辞典』(第3版))
ちなみに英英辞典を調べると、democracyの項には
1.Government by the people, exercised either directly or through elected representatives.とある。したがって、別に国家のレベルでなくても、民主的なシステムであればdemocracyということになる。EUのような超国家的なシステムや州以下の地方団体もdemocracyであり得る。したがって、democraciesをいつも「(複数の)民主主義(諸)国」と訳せばいいというものではない。
2.A political or social unit that has such a government.
3.The common people, considered as the primary source of political power.
4.Majority rule.
5.The principles of social equality and respect for the individual within a community.
『アメリカン・ヘリテイジ英英辞典』(第3版)
研究者の中にはdemocracyに関して民主主義という訳語を与えず、カタカナのデモクラシーという訳語を与える者がいるが、これはdemocracyと民主主義のズレを嫌うからだろう。democracyは英英辞典的理解ではもっぱら政治(政府)のシステムだからであり、民主「主義」という(ややもすれば規範的な)思想的な意味合いは薄いからである。
英書を読む際は、democracyに限らず、加算、不可算に注意して、文脈に即して訳語を選択、決定していかねばならない。