要約について

 2限の英書は学生にレジュメを作成させ、それに基づいて報告を行わせている。1回の分量は10ページ前後。それを2人で分担するので、1人5ページ前後を読んで、A4判で2枚ほどのレジュメにまとめてくることになる。

 受講生は1年生。専門書を読んでまとめてくる作業は大変だろうが、まずまず頑張っている。とはいえ、不満はある。

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カタカナ語の言い替え

 英書を読んでいると、カタカナ語をどこまで日本語に訳せばいいのか悩むことが多い。

 昨日、センサスは「全数調査」 カタカナ言い換え35語発表という記事を読んだ。

 「外来語を分かりやすい日本語に言い換える検討をしている」国立国語研究所のサイトには、「外来語」言い換え提── 分かりにくい外来語を分かりやすくするための言葉遣いの工夫 ─というページがある。具体的な提案は、提案した語の一覧(第1回〜第4回総集編)にまとめられている。

 一覧を見ると、昨日書いた記事で使ったアーカイブ(archive)が筆頭に載っていて、「保存記録」、「記録保存館」という提案がなされている。もちろん、この2つだけでは意を尽くせないから、「記録、資料、史料、公文書館、文書館、資料館、史料館」といった、その他の言い替え語例も掲載されている。英英辞典を調べてもらえればわかるが、英語では記録、文書の歴史性が重要で、果たして言い替えがその意を表すことに成功しているか、疑問が残る。

 言い換えの提案がされているカタカナ語には、それぞれ理解度が星の数で示されている。アーカイブは、国民全体でも、60歳以上の中高齢層においても、星1つ(その語を理解する人が国民の4人に1人に満たない段階)である。こういう状態であれば、一般の人にたいしては、言い替えるのが適当かと思えるが、ならば本来の「歴史性」を表現するような言い替え語を示唆すべきだろう。

 アーカイブがカタカナで用いられレ、適切な言い替え語がないということは、この国が文書、記録をきちんと保存し、利用していくという慣習を、一般生活に浸透する形で持ってこなかったことを意味しているような気がするが、どうなのだろう。

 さて、英書を読んできたときにarchiveが出てきたらどう訳そうか?

democracyとdemocracies2

 democracyは民主主義だと思いこんでいると、In advanced democracies, ……といった文章に出合ったときに、困ることになる。

 実際、修士のときの英書の時間に、democraciesが出てきたときに、ある学生が「民主主義の複数形って何でしょうか?」という質問を発した。確かに民主主義の複数形とは、何が何だかわからない。

 democraciesと複数形になっているから、この場合のdemocracyは可算名詞である。それに注意してdemocracyを辞書で引いてみると、

民主主義国
The United States is a 〜.  合衆国は民主主義国である.
(『プログレッシブ英和中辞典』(第3版))
という意味を見つける。上のIn advanced democraciesは、「先進民主主義国において(は)」という意味になる。

 ちなみに英英辞典を調べると、democracyの項には

1.Government by the people, exercised either directly or through elected representatives.
2.A political or social unit that has such a government.
3.The common people, considered as the primary source of political power.
4.Majority rule.
5.The principles of social equality and respect for the individual within a community.
アメリカン・ヘリテイジ英英辞典』(第3版)
とある。したがって、別に国家のレベルでなくても、民主的なシステムであればdemocracyということになる。EUのような超国家的なシステムや州以下の地方団体もdemocracyであり得る。したがって、democraciesをいつも「(複数の)民主主義(諸)国」と訳せばいいというものではない。

 研究者の中にはdemocracyに関して民主主義という訳語を与えず、カタカナのデモクラシーという訳語を与える者がいるが、これはdemocracyと民主主義のズレを嫌うからだろう。democracyは英英辞典的理解ではもっぱら政治(政府)のシステムだからであり、民主「主義」という(ややもすれば規範的な)思想的な意味合いは薄いからである。

 英書を読む際は、democracyに限らず、加算、不可算に注意して、文脈に即して訳語を選択、決定していかねばならない。

social science とsocial sciences(2)

 social sciences とsocial scienceはどう違うのか?

 この問いに本格的に答えようとすると、そもそも社会科学とは何か、という問いに行き着くが、ここでは英書を読む際の注意を喚起するために問いを立てたので、簡単に説明する。

 社会科学に属する学問には、政治学、経済学、社会学などがある。これらは「個別」社会科学である。こういった個別の社会科学によって構成される社会科学がsocial sciencesである。手元にある『ジーニアス英和大辞典』には次のように説明されている。

(1)[通例 the 〜 sciences]社会科学《経済学・歴史学政治学・心理学・人類学などの総称》
歴史学、心理学、人類学が社会科学に属するのか、議論はあろうが、さまざまな個別社会科学の総体、総称がsocial sciences(複数形)であることがわかる。

 『ジーニアス英和大辞典』には上の説明のあとに次のようにある。

(2)1の1部門; 社会学
 これから単数形のsocial scienceは、総体としての社会科学(複数形)を構成する個々の社会科学を意味する、その中でもとくに社会学のことをいうことがわかる。

 辞書的には以上でいいのだが、社会科学を学ぼうとする学生は以下のことを知らねばならない。
 

 社会科学は社会に関する学問であるが、social sciencesと複数形で書く場合は、政治学社会学や経済学など、個別社会科学の集合体として捉えられるから、社会に関する研究のアプローチも、それぞれの学問によってさまざまとなる。

 それに対して、social scienceと単数形で書くときには、複数形の社会科学を構成する1つずつの個別社会科学を意味するだけでなく、社会に関する1つの独立した学問を意味することがある。この場合、経済学、社会学政治学による社会に関する研究の総体として社会科学(複数形)を捉えるのではなく、個別学問の枠を越えた、社会に関する統一的な学問としての社会科学(単数形)を想定する。つまり、社会に関する1つの独立した学問が存在する、あるいは成立すると考えるのである。

 社会に関する独立した1つの学問が成立し得るかについては議論があろうが、統計学や心理学などの発展によって、調査方法の多様化やデータ処理技術の急速な向上が見られた20世紀前半には、自然科学同様、社会に関しても一般理論、一般モデルが構築できる=1つの社会科学が成立すると考えられたことがあったのである。

 sがあるか、ないか、単数形か、複数形か、ということには、以上のような意味、思想の違いが存在するのである。

democracyとdemocracies

 単数形と複数形に関するクイズをもう1つ。

 democracyは多くの学生が「民主主義」と当然のように訳す。それでは、複数形のdemocraciesは何と訳せばいいのだろうか?やっぱり「民主主義」?

social scienceとsocial sciences

 冬休み入りして時間ができたので、学期中に書けなかった英書の読み方について、思いつくままに書いていく。

 もっとも英書といっても専門は社会科学なので、理系や人文系の学生には役に立たないことが多いと思う。主に社会科学系の学部生を念頭に書いていく。

 そこでクイズ。社会科学の英訳だが、social science(単数形)、social sciences(複数形)のどちらが適切なのだろうか?あるいは単数形と複数形とで何か意味が異なるのだろうか?